カミングアウト2
以下、「いくたまき」という漫画家に興味のない方には無関係な記事ですので、読み飛ばして下さい。
長年溜まったコリのせいで体調不良になった。あんましてほぐしているうちに、不思議なものでコリ、つまりストレスの溜まった時代の事を色々思い出した。「いくたまき」という名を知っていても、「昔青年誌とかで描いていたが消えた作家」だと思ってる人が多いので、唐突ですが今ここで、ブリッコ廃刊以降の「いくたまき」の事を少し書いておく。
私(いくたまき)が結婚以降マンガ描かなくなった、というのは間違いだ。描きたくても恐くて描けない状況に追い込まれたのだ。東京から撤退してからも、私はデビューの時世話になった編集の元へネームを持って行ったりしていた。編集の態度は妙によそよそしかった。ネームは「Holy Joe」という戦闘もの。東京でテロが頻発する時代の特殊部隊とネゴシエイターの物語だ。私は信頼して編集にネームを預けたが、それ以降連絡はなかった。…それから何年経ったか。私は、私が書いたセリフやシーンにそっくりなアニメのシーンが、テレビで放映されているのを見て仰天した。「パトレイバー」である。スペシャル版か何かだったと思うがショックで詳細は忘れた。あれは絶対偶然じゃない。他の誰にも見せてないネーム、編集が流したのでなければ知られる訳がない。…だが証拠がない。その編集の出版社は潰れ、ネームは行方不明。信頼してたからコピーすら取ってなかったのだ。漫研関係の人間にも訴えたと思うが、「偶然」「よくあること」などと言って相手にされなかった。まるでそんな事言い出す私が悪いかのような口ぶり。私は完全な編集者不信、そして人間不信に陥った。所詮人はテレビでやってる知名度の高いものの味方だ。そして私は漫画、特にアニメというアニメは吐き気がするほど嫌いになった。漫画家のくせに。だからろくに描けなくなったのだ。昔は「読者を楽しませたい」という一心で作品を描いていたが、「なんでそんな連中が喜ぶ事を描かなきゃならん」という心性に変わった。
その後学研に持ち込んで再デビューを果たした。子供向け漫画なら、どうにか人間に悪意を持たずに描けたからだ。ネタは無断でよく使い回しされたが、自分にちゃんと描く場所はあったから腹も立たなかった。その学研の仕事がなくなった理由。私のイラストがインパクトあり過ぎて、ウリである教材(ふろく)の写真が目立たないと苦情を言われるようになったのだ。そんなのしょうがないじゃないか。始めは笑って済ませていた。だが、アンケートで人気がない(ストーリーのないカットですよ?)とイチャモンまで付けられ始めた。それまでのストーリーのある作品はかなり人気取れてたから、カットも悪い作品ではなかった筈。何度も描き直しを命じられ、電話口で口論。「子供には毎年ハムスターが1番人気があるんだよ!」「だったらハムスター載せればいいじゃないですか!」…そして本が出来上がると、私のカットは本物のハムスターの写真に差し替えられていたのである。それからもしばらく仕事したが、どんどん冷遇され、やがて切られた。学研の中には親切な編集もいたが、作家に対して権力握ってるなんて思ってる連中はこんなもんである。
別に、これは学研がどうこうしたとは思わないけどね。世間で大人気になったハムスターのアニメ。発表は1997年だ。その前、1994~1996年まで、私は学研で「ハムスターエジソンシリーズ」というのを描いている。キャラは白地に茶の丸模様のハムスター。(^^)いやあ偶然かも知れないですね。でも、明確に年代は私が先なのに、こっちが何かしたように言われても困るから。小学館は色々やってくれるなあ。あと、2000~2001年、同じく学研で「キノコのこのコ」というキノコが主人公の4コマを描いているが、なんか、これにそっくりなキノコ会社のCMずっとやってますよね。いつからかは知らないが、2001年よりは後である事は間違いない。これも、旧作を自分で出したらこっちが悪いかのように言われやしないか心配で。
そんな訳で。私はずっと、業界も業界の人間も、とにかく「売れてる作品」は一切信用できない状態だ。自分のホームページに作品を上げるのは、個人の編集者を信頼するより、その方がまだ著作権の証拠になりそうな気がするからだ。人間不信は続いている。作品を見せたら、曖昧ににウンウンうなずく裏で「面白いが売れ線の絵じゃないな。ネタだけ盗って別の作家に描かせよう」とか思っている編集の顔が目に浮かぶ。アソウタロウさんと違って、私はもう漫画界大嫌いなのだ。それでも、少しは純粋に「いくたまき」を応援してくれる人もいるのである。誰も漫画関係者ではないが。だからまた、本格的に作品を発表できるように体勢を整えたいとは思うのだが…私には味方もお金も体力もごく僅かしかない。時間が掛かっても許して下さいね。それと、最近の漫画やアニメについて私に話さないで下さい。頼むから。ガンバとか、子供の時に見た物以外、私はもう一切他人の作品は見たくないのだ。
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コメント
はじめまして。
ネットサーフィン(死語?)でたまたまとおりかかりました。
たまたま目にしたブログエントリーがヘビーな話題でしたが、20年以上前の小学生のころに読んだだけなのに、『そして誰も…いなかった』『ネオ・サヴァービア』 は、いまでも強烈に印象に残っていて、その後、残念ながら作品を拝読する機会がなかったにもかかわらず「いくたまき」というお名前を拝見して、「ああ、あの作品の作者さんか」とすぐに頭の中で紐付けられました。
評論家でないので言葉で表現できませんが、10歳のころの自分が、「なんだか、すごいものを読んでしまった」と思った記憶は鮮明です。
読後、実際のページ数以上の長く濃密な話を、実際に経った時間以上かけて読んだような感覚になったのを覚えています。
物を作る側の方は、それをとりまく環境に、いろいろと悩まされることがあるようですが、受け取る側としては、いつになっても「あの感動をもう一度」という感じで、新作をいつまでも待ち続ける次第です。
実際は、A5サイズだったかの本だったと思いますが、目を隠していた包帯(?)を取ったところのシーンなどは、掲載誌はいつかむかしに手放してしまいましたが、いまでも新聞紙サイズぐらいの衝撃でのこっています。
それでは、失礼しました。
投稿: いぬぞり | 2007年9月23日 (日) 10時40分
いぬぞり様・
コメント有り難うございました。メディウム(ネオ・サヴァービア等の掲載された本)まで読んでいて下さった方に、こんなブログを見せてしまって申し訳ない限りです。せっかく応援して下さる方がいるのに、色々あって、長く思うように作品を発表できない状況だった事が一番の悩みでした。
でも今、ストレスから来る長年の体調不良も、少しずつ良くなっている所です。これから是非、ネットなどでどんどん作品を発表して頑張りたいと思います。こんな作家ですが、もし今でもご興味がお有りでしたら、これからもどうかよろしくお願いします。
投稿: いくたまき | 2007年9月23日 (日) 11時29分
こんばんわ。「アブナーズ」「貧民通信」のファンです。
20数年前新宿で行われた、いくた氏のサイン会にも参加した者です。前に書き込んでいる方と同じく、たまたま微笑ましい思い出に漬りながらリンクを転々としていたら、この記事にたどり着きました。
「アブナーズ」はキャラクターの個性が際立っていて、越智静美やめめんと森(でしたか?)のような準レギュラー陣も充実していて大好きでした。また、ギャグ漫画でありながら迫力あるバトルシーンに、当時大学生だった私は血湧き肉躍る思いでページをめくったものです。
混沌としたご時世ですが、いくた氏が貴HPに記されているように、時代が氏の作風に追いついてきた感もあります。新たな作品の発表をお待ちしております。
以上、出来損ないの感想文ですが、深夜に貴重な文章に触れた気がしましたので、思わず書き込みさせていただきました。
投稿: 国境の住人 | 2007年10月 1日 (月) 01時42分
国境の住人様・
昔読んでいて下さった方々に、こんなに書き込んで頂くとは。有難うございます。私は幸せ者かも知れません。サイン会にまで来て下さったんですね。
きっと、また作品を出して読んで頂けるように頑張ります。すぐには出来ない事もありますが、近況は小まめにHPでレポートしますので、お時間のある時はまたどうかよろしくお願いします。
投稿: いくたまき | 2007年10月 1日 (月) 14時35分
私も当時、「メディウム」で発表された暗く物悲しい作品群に衝撃を受けたクチです。更に、同時期に出版された「パイが好き」がとんでもないギャグ作品でしたので、こんなにかけ離れた作品を同時に描けるとは、何てすごい作家さんなんだと関心したものでした。
それ以降、「貧民通信」「アブナーズ」を探して書店を何件も回って手に入れ、これからもどんどんいくたさんの作品を読んでいくぞーーと思っていたのに、いつのまにか見かけなくなって(失礼)いたのには、こんな訳があったのですね。
このブログを読んで、いくたさんの被った気持ちを分かったつもりにはなっても、所詮私は一読者にすぎず、誰かの作った作品を享受するだけの存在でしかありませんので、作り手としてのいくたさんの気持ちを本当に理解できているのか・・・いえ、理解しようとする事すら本当は不遜な考えなのかもしれませんが、それでも敢て言わせていただければ、「このままではもったいない」です。
これまで20年(すみません。学研の方は全く知らなかったもので)待ったんですから、あと10年やそこら待つ事は屁でもありません。新しい作品が読める時を、心待ちにしています。
投稿: まぐらい | 2007年10月21日 (日) 01時09分
まぐらい様・
10年もお待たせする訳には! 涙が出そうな書き込み有難うございます。(T^T)もー何が何でもまた作品出します。あの頃、アブナーズの連載が終わりブリッコが廃刊し体調は崩れ、下宿は地上げでなくなり引越し、現亭主やまくんが「にゃー」とやって来て訳の分からない状態になっていた…とはいえ、可能なら東京にしがみついて描いていたかったです。
せめて同人作画グループの「GROUP」がちゃんと発刊されれば。前代未聞に刊行が遅れてるんですが、私の作品も載る筈なので。かつて、やはり作画の発行物「なかま」として出してもらった「アリスBC」という作品があります。これはほとんど誰も知りません。長編なのでネット掲載は無理と思ってたのですが…ちょっと考えてみます。
投稿: いくたまき | 2007年10月21日 (日) 09時51分
業界におけるパクリの横行は頭の痛い問題ですね。私も某人気マンガの盗作疑惑を追及したところ、そのマンガの熱狂的ファン数人から徒党による執拗な嫌がらせを受けた経験があります。
それはさておき、「なかま」には確か先生のお写真もちらっと出ていたことがあるのではありませんか。当時の男性的な画風と性別不詳の不思議なペンネームから推して、たぶん先生は男性ではないかと勝手に想像していたのですが、「なかま」で拝見したお写真は目がぱっちりとした清楚な美女だったので驚いた記憶があります。
投稿: 数字9 | 2007年10月31日 (水) 05時12分
数字9様・
(^^;)(^^;)(^^;)お褒め頂いて恐縮です。「なかま」は版も小さく、写真は載らない本だと思うのですが、何かでご覧になったんでしょう。「男だと思ってた」というのはよく言われました。中には「もっとブコツだと思ってた」という人もいました。可愛い絵が描けなかったもんなあ…
私でなくても、誰かがネタを「盗られた」「パクられた」みたいな話も時々聞きましたが、立証するのも責任を問うのも難しく、黙ってる人が多かったようです。天下のデ○ズニーだって、盗られるだけでなく「ライオ○キング」とか「ナ○ィア」とか色々やってるし… 基本、ファンが良識を持って判断するしかないんでしょう。
投稿: いくたまき | 2007年10月31日 (水) 13時53分
そういえば、北川悦吏子の出世作となった『ズンドコベロンチョ』って、いくたま先生の『クイカイマニマニ』にちょっと似ていますね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BA%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%B3%E3%83%99%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A7
投稿: ひらおか | 2007年11月20日 (火) 21時26分
ひらおか様・
まあ、それはたまたまかも。でも、「クイカイマニマニとはサラスポンダです」という自分のオチの方が好きだからいーです(^^)。「そういえば昔、こういう作品があった」と誰かが宣伝してくれたら私の運気も少しはアップ…せんか…
投稿: いくたまき | 2007年11月20日 (火) 22時00分
いまだにアブナーズの住人の言動が頭の中をグルングルン回ってる、当時大学生だった者です。
いくたまき先生、現在は執筆箇所ないとの事で残念です。あのインパクトあるギャグの数々、絵はヘタだけど
それが逆にテイストとなって、あの漫画を傑作に仕上げてたと思います。
いまだにアブナーズ全2巻宝物です。
投稿: おお健在だったんですね。 | 2009年9月 2日 (水) 13時13分
おお健在だったんですね。様・
(これはハンドルネームでしょうか…(^^;))
このブログ、昨年から面倒になって放置していたのに、ご訪問下さって有難うございます。
(やっぱり放置はいけませんね。反省)
最新の近況は、最近はこちらではなく本宅「生玉荘」の「廊下の隅」という掲示板に書くようになっていますので、よろしかったら覗いてみて下さい。
そちらのページはプラモデル関連のようですね。うちのご亭主である「やまくん」もプラモ好きです。主に船ですが。
投稿: いくたまき | 2009年9月 3日 (木) 01時39分