なんか、「ワーキングプア」とか「ネットカフェ難民」とかが社会問題になっているようである。今の私は千葉の田舎に住んでいるので、実態はよく知らないのだが。そんなにビンボーなのか? ちらっとTVで見た限りでは、安い部屋くらい借りられそうな収入はあるようなのに。…私は昭和末期、高田馬場の下宿にいた。その下宿は光熱費別で家賃2万だった。だから暮らせたのだ。すげー頑張って漫画描いてたけど、バブル絶頂期に立派なワーキングプアだった。今からするのはその頃の話である。現代の話ではないぞ。
私の原稿料は一枚5~6千円、カラーだと1万円だった。でも、滅多にカラーページなどもらえない。私のジャンルじゃなかったが、少女漫画なんかだと作家は使い捨て状態で、原稿1枚3千円という話も聞いた。漫画描きなんて何の保証もない仕事だから、運良く単行本出してもらって少しは余裕が出ても、恐くて無駄金は使えなかった。無論単行本など出してもらえない作家の方が多い。出てもメジャーでないと印税20万くらい。もーけるというような額じゃない。世間の人は「漫画って当たるとデカイのよね」という夢しか見えないようだが、当たらない人間が9割以上なのだ。
世間の人は良く知らないだろうが、漫画家と編集者の間には通常ちゃんとした契約関係はない。単に「編集の気分で」作家を使うか切るか決められてしまうのである。作家と契約を結ぶ出版社もあるが、そういう所で描くと一切他社の仕事はできないし、編集の言いなりに描かされる。よしんば人気が出て自由に描ける立場になっても、それはそれで、もう作者が描きたくないのに人気がある限りほぼ強制労働で続けさせられたり、大変らしい。(私はそういう仕事はしなかったので良く分からん(^^))…つまり。漫画描き(と、後述するアニメーター)は人類最悪の労働条件下にいたのだ。(一応過去形にしておく)雇用条件は「気分」。報酬は「相場」。人気があると無理矢理働かされ、ないとゴミのように捨てられる。病気したって誰も助けない。切られたって無論退職金も出ない。それでも、本や出版社自体が存続していれば怒りの矛先も持てるが、小さい出版社だと突然廃刊する。会社が潰れる。原稿持って夜逃げする。一度、割と大手の某徳○書店でこの騒ぎがあった。単に「漫画はもーからない」という理由で突然会社が方向転換し、雑誌が廃刊して消滅したのだ。描いてた作家たちはそのまま放り出された。つまり、別に落ち度もないのに突然全員解雇されたようなもの。連載中の物語もぶった切り。出版社は読者にも作家にも責任なんて一切取らなかった。なのに社会的制裁とやらを受ける訳でもない。
アニメーターはもっと悲惨だったらしい。当時は鉛筆描きの動画、一枚百円。原画でも3百円。アニメ会社自体の給料は雀の涙で、アニメーターは食って行きたければ「腕が壊れるまで描いて描いて描きまくる!」しかなかったようだ。とある知り合いの同級生、アニメが好きで上京しアニメーターになったものの生活が厳しく、結局、結婚を控えて転職せざるを得なかった。最近、日本のアニメがすごい!とか言うのは、実は中国や韓国に外注し、人件費を安く制作できるようになったせいである。それ以外の理由ではないと思う。(その分海賊版も盗られれまくり(^^))報道番組で「最近海外の人が多く、日本の若者のアニメーターが減ってるのは残念ですねー。志して欲しいですね」なんて訳の分からない事言ってましたが、ほんと世間って何も知らない。
だから…「お金がなくても、ネイルアートだけはしっかり付けてるネットカフェ難民」の気持ちなんて、悪いけど私には分からないのだ。下宿の片隅、金が無い時はコンビニでおにぎりとアサリ缶を買い、「今日もごはんが食べられます。ありがとう」と手を合わせて食べてた私には。ワーキングプアは政治の力で解決しなければならない、なんて言ってるが、その恩恵は多分、売れない作家やアニメーターの下にもたらされる事はないだろう。たとえアソウタロウさんが漫画文化を奨励してくれても、もーけるのは版権握ってる出版社や広告業界だけだ。どっかの軍事政権に経済援助するのと変わらない。末端にまで届きはしない。(^^)私が、世の中の悪さを政治のせいにするのが嫌いな理由はここにある。企業や業界の悪い体質を作ってきたのは民間の人間だ。それも、トップでも末端でもなく、中間職で「上から来たストレスを下になすり付ける」ような輩だ、という事を私は知ってるので。