女が描く戦争。
N○Kのクローズアップ現代を見て、「猿橋勝子」という女性科学者の事を初めて知った。不勉強にして知らなかった。…というより、こんなに偉大な人なのに、死去されるまで巷間で名前を聞いた事さえなかった。だから日本の教育もマスコミも信用できないんだよな私は。ビキニ事件の放射能汚染の酷さを驚異的な正確さで分析したにも関わらず、日本の男学者たちに「女に分析資料は任せられない」なんてひどい事言われ、核実験が安全だと主張していたアメリカには弾圧され… しかしアメリカの学者との分析競争で勝って、見事に科学者としての能力の高さを証明し、女性科学者を励ます「猿橋賞」を創設したそうだ。なんて偉い人だろう。ちゃんと伝記でも読んで、これからは尊敬する人はと聞かれたら「猿橋勝子」と答えようかと安直に思った。
この方は核実験の縮小、つまり平和に大きく貢献したのである。それに引き換え私はちっとも偉くない。今描いてる作品は戦争物。…正確には内乱だが。これ以外に今描きたいのもやっぱり戦争物だ。女性は平和のための力、という考え方には真っ向対立してる気がする。でも本当はそうではない。「女の描く戦争物なんて」と小馬鹿にするむさい連中に、生活という「現場」を背負った戦場、というのを描いて見せたいという気持ちがあるんだと思う。だからって、科学という男社会で「女の科学者なんて」と偏見を受けた人と同様に考えたら不遜すぎるけど。(大体私は社会的実績なんてないし)
ところで、最近のアニメの戦場は女だらけのようである。(ちゃんとは見てません)下手すると女しかいない。でもそれはやっぱり男の願望で作られた夢の世界だ。何故なら美少女、美女ばかりでオバサンがいない。血みどろの訓練もしてないのに「ちょー能力」で妙に強かったりする。何より、女だらけの世界には必ずある「女性特有の現実主義」が全くないと思う。だから私は何の説得力も感じない。そして、悪い事に最近は当の女性がその「男の夢」に合わせて自分を作っている気がするのだ。だからアニメの戦場はどんどん現実から乖離し、本来戦場物で描かれるべき教訓や、戦う事それ自体の残酷さが欠け落ちている。目をそらす。もはや「娯楽としての戦争」でしかない。まあ、現実持ち出すよりアニメ美少女になりきってる方が楽だし気持ちいいだろうけど。
戦争の残酷さをいくら訴えたって、戦争はきっと消滅しない。国家のために戦う戦争は絶対嫌だが、今敵が襲い掛かってきたら、何の能もない私だって自己防衛くらいは(可能なら)してしまうだろう。「そういう現場」に立たされた「現実の人間」はどう行動するのか。それを正面から(マンガなので全部リアルにはできないが)考えてみたいだけだ。戦ってる最中だって人間は腹が減る。排泄もする。暑くても寒くても病気になる。病気や怪我は治療せねばならない。赤ちゃんにはミルクが必要。女性には生理もあるぞ。そういう、人間としての生きる事情を無視したから、旧日本軍はあれほど残酷で無意味だった。そして兵士の命を大事にした米軍は大勝利した。戦って死ぬのでなく、ただ南方をうろついた末餓死させられるなんて最悪だ。戦争は全部無意味だろうけど、中でも「第二次大戦の日本の戦争」は世界一無意味だったんではないだろうか。だから、私は国家の命で戦う戦場は描かない。描けない。馬鹿馬鹿しいから。そういう戦争でなく、「現場の人間が生き残れる物語」を描いてみたいのだと思う。得るものは戦いの勝利ではない。生存だ。そして、実は多く生存した側が「勝利」なのだ。そういう視点って、意外と男性には持てないんじゃないかと。
まあ、偉そうな事言う程の作品になるかどうか知らんが…(ならなくても責任取れないが…)ただ「女性キャラの露出度が少ない」といった感想だけは持たないで欲しいと思ったの。危険な場所で肌を露出し、でかい乳揺らして走り回ってたら大怪我じゃない。ねえ。私には、「露出度の高い女性戦闘員」ほどバカに見えるものは他にない。
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コメント
最近読んだ「沖縄戦の真実と歪曲」という本に、反戦の3つの柱が提唱されていました。一つは「戦争被害の悲惨」で、従来はこの部分のみが強調されてきました。しかし重要な二つ目は「戦争加害のメカニズム」であり、さらに三つ目として「戦争の加害を防ぐ抵抗」があるというのです。この三つが揃わないと有効な反戦にならないというのは、納得できました。
投稿: 志村建世 | 2007年11月22日 (木) 22時00分
志村先生・
私の描くものが「反戦」かどうかは分かりませんが… 立場の弱い者が立場の強い者に、卑屈にならず自分を過信もせず、対等の自立した意識を持つのはとても難しい事だと思います。日本人はいまだに「日本とは何か」「強いのか弱いのか」良く分かってないのでしょう。無論私も。
投稿: いくたまき | 2007年11月23日 (金) 00時00分
いくたさんが描いている戦争物、拝読するのが楽しみです。
私も仕事柄、戦争について考えたり、話したりする時もありますが、ドラマの舞台としての戦争なら、もう少し肩の力を抜いてとらえてもよいかと思います。そもそも、「戦争」も中世・古代の「合戦」も基本は同じ行為。「反戦」や戦場のリアリズムを念頭に置かなくても、「平家物語」には心を打たれ、涙するわけです。
ただ、美少年・美少女だらけの戦場には私もついていけません(^_^;)最近、野郎しか出てこない戦闘ロボットものを観ましたが、童心に帰ってドキドキしてしまいました。
投稿: 国境の住人 | 2007年11月26日 (月) 23時12分
国境の住人様・
ありがとうございます。最近、美形路線ではなく「むさ苦しい男の戦場」に回帰する流れもあるみたいですね。ちなみに同居人やまくんは、その手の「架空戦記」「戦争の裏話」みたいな本を大量に読破してます。
結局、戦場物でも何でも、人間がどう描かれてるかが一番肝心なのでしょう。私は描きたい人物ばかりで戦場の舞台を作ったら、どうしても現実の歴史から離れてしまいます。(^^)
投稿: いくたまき | 2007年11月27日 (火) 00時35分