世紀の駄作はまた楽し(^^)
本日、よーやくタダ券で「崖の上のポニョ」見て来ました。公開からかなり経ったし見た人も多いだろうから、以下ネタバレで書きます。まず最終的感想。「ゲドにも負けたな、親父」…すいませんね。(^^)もちろんジブリだから動画はしっかりしてるし、何のかんので最後まで見せられてしまうが。ストーリーが酷い!(^^)感覚的にも「そりゃ違うだろ」という突っ込み所満載。どこが酷いのか、順を追って書いてみよう。
①どっこも盛り上がらないのこと… どういう話かというと、(もう知られてますね)海の精みたいな巨大母と、海に住む変な男の間に生まれた金魚(半魚人?)のポニョが家出をし、宗助という5歳の男の子に拾われてなつき、一度父に海に連れ戻されるが、魔法で人間になって津波を起こし、宗助の元に戻り、水没した町の中で宗助に「好き」と言わせ、本格的に人間になっておわり。…ほんとにそれだけなのだ。大半は人間になったポニョが人間のやる事をやって大喜びする日常のシーン。町が津波で水没するシーンだけがやや盛り上がるが、印象に残るのは、あの波の中を軽そうなトッポか何かで爆走する、宗助の母リサの運転技術の高さだけだ。デイケアの仕事なんかやってないでラリーに出るべきだ。ポニョが何故そんなに宗助になついたのか不明。宗助の方も子供特有のこだわりでポニョが気に入ったのか、異性愛なのかまるで不明。魔法の暴走で月は大接近し、人工衛星が落ちて通信は途絶え(なのに何故か海自は出てる)、地球が破滅しかけてるのに町の人はニコニコ、何の社会的展開もない。宗助がポニョを好きだったら人間になれるが、嫌われたら海の泡に…という人魚姫と同じ設定でも、宗助は元々ポニョを好きとしか言ってないし、ライバルになりそうな人間の少女も出番なし。それをラストで「ポニョが好きですか」「好き」と言ったからって、今更どーだというの。感動するポイントがまるでないのだ。子供は映画館で「あっカニだー」「タコだー」と喜んでたようだが…そんなら水族館の方がためになるしなあ。
②あれは海ではないのこと… 前評判で「海がテーマ」だと聞いてたから、どう描いたのか見てみたかったのだが…私が心配したとーりの「ダメ海」だった。(^^)あれは海ではない。コールタールと色紙の貼り絵だ。海の手下みたいな半生物のネトネト波が出るせいでコールタールに見えるのだろうが、なんたって波がない飛沫がない。落ちれば岩をも砕く、あの恐ろしい波の重量感がまるでない。だからあれ程シーンを割いているのにも関わらず、津波特有の迫力がない。前にも書いたが、海は常に動いているのに律動感がないのだ。確かに淡水じゃないから、海には粘度がある。しかしそのせいで水はのっぺり続くのではなく、一つ一つの波や海流が固まりになって別に動いている。だがら海の水には「切れ目」があり、その境目には粘度とはかけ離れた、レースのような泡や小波が発生する。それが全然認識できてない。だから「海を描いた物語」とはとても私には見えないし、水と呼ぶには爽やかさもない。大体、海から上がって体拭くだけで済むわけないだろ。(^^)シャワー浴びないと赤剥けじゃん。そもそも「海に金魚」という時点で違和感はあったしなあ。一緒に見たやまくんは、「なぜクラゲの中に入ったポニョが消化されないのか」引っ掛かってたしなあ。作者ほんとは海体験がないのね、という感じ。やっぱりガンバの海に勝てる海はないなあ。
③海辺の生活が変なこと… やまくんは船乗りの息子なので、船と海にはうるさいぞ。(^^)その彼の指摘だが、もし船が音信不通になったら、家族は絶対あんなに普通にしてはいられない。見付かるまで一睡も出来ないくらい。なのにあのお遊び感覚の日常は何だ。それに、宗助の父が帰る筈の日に用事で帰らないというエピソードな。船には航行計画というものがあるから、ほんとは必ず母港に帰る。「ちょっと用事で帰れない」なんて営業マンみたいな仕事はしない。そんな事許したら海上事故だらけだ。それに家族が行方不明なのに、どーでもいい海の母と「ポニョがラブラブ」みたいなクソ話をする訳がなかろ。襟首つかんで「ちょっと!あんたらが津波起こしたなら船の消息くらい分かるでしょ!夫を返して!」くらい言うに決まってる。あと、この港の生活様式がバラバラ。最初に地引網みたいのが出るが、ゴミばっかり拾ってるから商売になるまい。あれではゴミ処理船だ。でも漁港かというとそうでもない。船が陸に上げられてたが、そういう施設があるのは造船所だ。でも造船業でもなさそう。宗助父が何の船に乗ってるのかも最後まで分からず。貨物船ならますます航行スケジュールは厳密だ。…大体30代だろ。常識的に釣り船でもなきゃ、その年代で船長はまずない。現実に海で生きてる人を観察して描いたのか?
④何もかも中途半端… ポニョって可愛いというほど可愛くないし、不気味というほど不気味でもない。アクションも走るだけで、特に見せ場もない。他のジブリヒロインと違って意外と思い入れできないんだよな。あえて言うなら、魚から人間になる途中形態の「3本指の手足」のままアクション見せてくれたら少しは面白かったのに。すぐ人間になっちゃうのでつまらん。宗助も、母リサが大事なのか、船長の父を慕ってるのか、トキさんの心を開きたいのか、ポニョの事だけ考えてるのか不明で、ただ優柔不断な印象は免れない。その「トキさん」はデイケアセンターで1人皮肉ばかり言うスネた婆さんなのだが、だからって宗助や世間を憎んでいる…という程でもない。だから後で1人宗助を助けようとしても、別に感動もない。行動的でカッコいいのは母リサだけだが、夫の行方不明や、息子が人面魚と結ばれる(つまり5歳で嫁に来る?)事をどう捉えているのか描かれてない。宗助父もちらっと出るだけで、長嶋カズシゲが声を当てた意味も不明。変な男「フジモト」が何故海にいるのか、魔法の薬で何をしようとしてたのか、なんで嫁さん「グランマンマーレ」と別居してるのかもサッパリで、ポイントで唯一の悪役…の筈が存在感がない。そのグランおばさんだって、母なのか女なのか、あるいは海の守り神なのか、位置づけがはっきりせん。ただ「でかいな」だけが印象。大体、デボン紀の魚が現代に泳いでる理由はなに。太古の海の生命は素晴らしい、がテーマなの? 恋は異種族でも貫ける、がテーマ? 家族愛がテーマ? 老人でも元気になれると言いたかった? 全てが小出しにされ、全ての描写が深くなく、緊迫感も真剣さもなく、中途半端で散漫なのだ。思いつきでイメージだけ構成しても、最後までストーリーの方向性が見出せなかった、という感じ。この話が見られたのは、ジブリスタッフの過酷で細密なアニメート作業のたまものだろう。脚本は大失敗と言うしかない。
⑤心に残るセリフがない… いわゆる「決めセリフ」になるような、記憶に残る言葉が全くない。「ポニョすきー」だけが耳につく。あの、タルいと言われるハウルですら「年を取っていいことは、驚かなくなることね」とか、千と千尋でも「人間は何も忘れない、思い出せないだけ」とか、それなりにいい言葉はあったのに。ラピュタのシータが可愛い顔して「ここは私とあなたのお墓よ」なんて言うのも良かったな。でも…ポニョは一体観客に何を残したのだ? あんたがソースケ好きだからどーだってーの? 自分が思い込んだら町を沈め、人に迷惑掛けてもいいって話なの? 魔法の力を解放して地球の危機を救い、代償に泡になるとか、宗助と離れて今度会った時にはただの魚になってるとか、そういう自己犠牲だったら少しは感動したろうに。まあジブリはアンハッピーは描かないけど、ご都合主義が行き過ぎたのか、すでにテーマ自体が崩壊している。このヒロインが存在しなければならない、物語上の理由が見えないんだ。人間は善や光の面と、悪や不幸の面を必ず両方持っている。悪い、もしくは不幸な人間を描かないという事は、つまりもはや「人間そのものを描く勇気がない」という事でしかないんじゃないか。だから…「ゲド戦記にも負けた」と言わざるを得ないのだ。ゲドがどれ程の欠点を持っていたとしても、あの「根性の曲がった隣人や悪役」たちには強烈な存在感がある。悪い意味で人間的である。テルーとアレンは「恋」をしてただろうと思える。でも、ポニョは足を生やしてワガママしたかっただけで、別に恋してるようには見えないのだ。
「好きだよ」と言うのは、実は大した愛情表現ではない。好きと言葉に出すだけでは、決して心の深い物は伝わらない。あるいはこの世紀の駄作を見て、「ほんとに愛情を伝えるにはどうすればいいのか」考えてみるのもいいかも知れない。私がもしこの設定でストーリーを立てるなら…「デボン紀の生物への愛」をテーマにするかも知れないが。(^^)
追記の蛇足・一番面白かったのは、上映前の館内注意やサービス案内のアニメに出て来た「鷹の爪団」だー。(^^)この館内で売ってるのは何でしょう?というクイズで、ファーストフードやセットチケットなど答えに3つ選択肢があって、3番目が「排出権」なのは笑ったー。(^^)子供も笑っていた。分かるのか。偉いなあ。
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