霊にカケアミされた話
これは私の、おそらく生涯ただ一度の…オバケにまつわる話である。(^^)しかし、まつわっただけで見た訳ではない。
高田馬場の下宿で漫画を描いていた時代。ある友人がいて、時々部屋に遊びに来た。出身地が同じ大阪で近かった繋がりである。…ちょっとエキセントリックな人でね。(^^;)私とは趣味も性格も全く違って、美少年好き、ファッション精通、聴く音楽はハードロック。わりと入り浸ってたので、一度原稿の手伝いを頼んだ事があるが…そっちはアカンかった。ただ、私にはない「霊感」があるらしかった。自称だが。私に見える訳じゃないから、それがホントなのか気のせいかは私には分からない。
ある夜、彼女が机代わりのコタツの上にあった紙に落書きを始めた。そして「今、このへん(肩の辺りを示す)に来てやんねん」と言い出す。何が来てるのかと聞いたら…これが「霊」らしかった。(^^;)しかもタヌキ。無論私には何も分からない。ただ、落書きしてる事から考えても「こっくりさんとかで来るやつと同類かな」という気はした。…一応、子供の時にそーいうのも流行ったからね。そんなに深入りはしなかったがある程度知っている。聞く所だと、あまり高級でない(^^)霊らしい。つまり彼女でなく、今手を動かして落書きさせているのは、その「タヌキ」だという事になる。…何を書いてるのかと思って紙を見たら、文字でなく図形だった。なんか四角を描いている。
「この四角がな、このコタツや」「へ?」「だから、今いるこの部屋の絵を描いてんねん」
なるほど、部屋を上から見た図に見える。四角は家具の配置だ。次に、彼女の手はコタツの位置の外側に丸を描いた。
「これは、今あたしがいる場所」
タヌキらしき物は、人物の描写に移った様子。彼女の向かい側には私が座っている。次は私か…と思って見ていたら、その通り私の位置に丸が描かれた。しかし…その後の展開が変である。描き終わったペンは何を思ったのか、少し考えるようにその位置でピタリと止まった。そして、おもむろに私の「丸」の中にタテ、タテ、タテと線を描き始めた。漫画で言う所の「タテセン」である。
「?」…驚いて私が眺めていると、タテセンを描き終ったペンは今度はその上からヨコ、ヨコ、ヨコ…と横線を引き始めた。丸の中は格子状になった。そして次にナナメ、ナナメ、ナナメ…3回重ねた。これは、漫画でハーフトーンを手描きする際によく使う「3カケ」ではないか。ええっ!?と更に驚いて見ていたら、それは4カケになり、5カケになり…やがて私の位置の丸は真っ黒に塗り潰されてしまったのだ。
よーするに私は「タヌキの霊」にカケアミされたのである。これはどーゆー意味なの!?…と彼女を追及したかどうはもう思い出せないが、ハッキリとは説明してくれなかったと思う。何が言いたいんだ。私の事だけタタってやるとか、そういう悪い意味なのか。…しかし、あの手の動きと間合いを考えると、タヌキは私の位置を示した後、その人物にあまりにも霊感がないので、拒否反応を示したようにしか思えなかったのだ。つまり「こいつ(マル)…あ、こいつイヤ。(タテタテ)こいつダメ。(ヨコヨコ)こいつ嫌い。(ナナメナナメ)こいつ見えない。(逆ナナメナナメ)えーいもう塗ってやる!…(真っ黒)」そういう感じ。(- -;)なんか霊から「霊感ない認定」されたような気がした。
でもまあ…「見えない」私の考えなので、本当の所は分からない。カケアミはタヌキの仕業でなく、実は彼女が自分の意思で描いただけ…とも考えられるが、それも証明できない。そう言えば一度彼女にアシスタントを頼んだ時、やたらカケアミを細かく塗り潰してしまって使えなかった事がある。カケアミというのは、灰色の出ない荒いモノクロ2値印刷で灰色を表すための手段である。だから線は均等に、接触しないように引かないと印刷で潰れてしまうのだ。そこんとこ言ったんだけど…「私のカケアミが気に入らないの?」とか思って根に持ってた(^^;)可能性もないとは言えない。どうなんだろうなあ。彼女とはもう連絡が取れないので、タヌキの正体もカケアミの意味も、彼女のその時の心情も、私には謎のままなのである。
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