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2011年2月24日 (木)

それが私の料理の聖典。

…その時代。昭和40年代。スパゲティーはまだナポリタンとミートソースの2種類しかなかった。コーヒーはミルクと砂糖が当たり前、ブラックなんて誰も飲まない。鯨肉が安く、ビフテキが買えない家は鯨ステーキ。お母さんの定番メニューは、鶏肉・人参・玉ねぎを入れたでっかいオムレツ。キウイ、パパイヤ、マンゴーはなく、トロピカルフルーツはパイナップルとバナナだけ。りんごは酸っぱい紅玉。マック(関西ではマクド(^^))もない。ケンタもない。ミスドもクレープも31もコンビニもファミレスも何もない。グルメという言葉自体誰も知らず、学生の帰り道のおやつは肉屋のコロッケだった。…そんな時代に、とんでもなく先進的な料理の本を私は持っていた。

それは婦人雑誌の別冊だった。まず表紙を開いて衝撃を受けた。婦人雑誌なのに、折り込みのグラビアに金髪美女の一色ヌード写真が。…と言っても背を向けて座り、顔だけ振り向いた姿なのでエッチではない。(^^)ただこの写真の場合、背中の方が衝撃なのだ。彼女の全身には、牛や豚の肉の部位を表す区切り、あれと同じ線があり、英語で肉の名称(ロースとかランプとか)が書かれていたのだ。だからってグロな感じでは全く無く、スレンダーな体型、頭にはカウボーイの帽子を被り、すました表情で振り向いた彼女はむしろカッコ良かった。下には「海外の写真雑誌から転載しました」とサラッと書いてあった。…料理関係の本なのに、グラビアからして只者ではなかった。

その中身。冒頭はカラーで「豪華な食卓」の写真。洋風、中華風、酒の席のオードブル風…とジャンル別に別れていて、当時の日本人がまず知らなかったメニューが並んでいた。詳細はさすがに忘れたが、私はこの本で初めて「杏仁豆腐」を知った。(無論、当時まだどこにも売ってない)息を呑むほどうまそう。おつまみを「カナッペ」と呼び、今では定番のクラッカーにチーズとか、そしてこれは今でも一般的でないセロリのレバーペースト詰めなどが紹介されている。…さらにめくると、やはり当時は誰も知らない「世界のスープ」が。冷たいスープ・ビシソワーズ、ガスパッチョ(東○ガスじゃないよ)、グリンピースの緑のスープ。普通のコーンスープさえ輸入物のキャンベルしかなく、贅沢だった時代にである。…せ、世界ではこんなん食べてるのかー!他にも「豪華な誕生日」など様々な特集が。料理というより、異次元の王宮のように見えた。

写真ページだけでなく、記事も充実していた。特に好きだったのは「世界の珍味」。かなりの情報量で謎の食材が列挙してある。グルメブームの20年も前に、私はこの記事でキャビアもフォアグラも名前だけ知っていた。(^^)「燕の巣」も、それがアナツバメというツバメとは関係のない鳥の巣だとか、洞窟で採取するとか、正確な情報が書かれていた。…おかげでグルメブームが到来した時も、私は特に驚かなかったのだ。(食べた訳ではない(^^))だけではなく、記事にはグルメブーム時でさえ広まらなかったメニューも多々含まれていた。今では保護されていて食べらない、どころか推理ゲームの代名詞になってしまった「ウミガメのスープ」、熊の掌、蚊の目玉の団子。…蚊の目玉は、洞窟のコウモリの糞の中から未消化のやつを洗い出すらしい。食べたいかどーかは別物だな。(^^;)

その他…「偽者に注意」。肉や魚の素材が安い代替品である事を警告し、写真比較したもの。シシャモが実はシシャモでないとか、銀むつはメロだとか、表示と中身が違う事が知られたのはごく最近だというのに。30年前のこの先見性はなんだ。ただ、そこには「鶏肉→実はウサギ」なんて驚きの偽者もあった。今とは違うセレクトだろう。…他にも、「芸能人のコーヒーの飲み方比較」、「新米お母さんのオムレツ製作対決」等、およそ食に関わる情報なら何でもあり。普通の「お料理Q&A」もあった。落し蓋とかアク取りとかかつら剥きとか、さしすせその調味料とか、私は料理の基礎知識をこの本で覚えたのだ。…ほんと、ただの別冊とは思えない、上流から庶民までフォローする凄まじい内容だった。長年何度も読み返した。さすがにもう失くしたが、この本は名作文学なんかよりずっと、私の人格の基礎を作った気がする。(^^)

時代は下り、バブルだグルメだと騒ぎ、それも失い…食文化はあの頃から見ると飛躍的に多様になったのに、この本に載っていて、いまだに世間で見た事がない料理も結構ある。…「豚のあばらのクラウン」。豚の肋骨を王冠のように巻き、中に詰め物をしてローストし、上を白い紙で飾ったもの。「あばらは肉屋さんで巻いてもらいましょう」とあったが、豚のあばら骨を置いてる肉屋なんてあったんだろうか。(^^;)「お誕生日の食卓」の項目だったと思うが、誰かお誕生日にこれを作って食べた、お金持ちの方はいますか。

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