小さ過ぎる命。
母の実家の田舎にいた時。…まあ昔だし、元々古い農家なので、長いこと火力は薪だった。ご飯もお風呂も薪で焚く。ご飯の火力にはそれなりの技が必要(^^)なので、私は触らせてもらえなかったが、風呂の火の番はよくしていた。じいさんが短くした丸太を斧でパコンパコンと割った薪が、くくられて家の裏に積んである。火付け用の細い枝をまとめた物もある。それらを使って火を焚く方法を、子供ながらに覚えていた。
薪はいきなりあぶったって火は点かない。かまどに数本太い薪を入れた後、上に細い小枝を適量突っ込み、更に新聞紙を丸めて隙間に入れる。マッチで火を点けるが、この時点で燃えるのは新聞紙だけだ。紙だから勢い良く燃え上がるが、すぐ消える。燃えているうちに小枝に引火させねばならない。小枝は細いだけあって乾燥してるから、これもすぐ火が点く。火力が上がって来たら、更にその上に薪を乗せ、今度は本格的に薪を燃焼させる。…割って積んで乾かしてあるとはいえ、元が生木だからこれだけやらないと中々燃えないのだ。松が多かったから、燃え始めるとヤニが染み出し、火力が上がる。そこまで来たらもう普通に他の薪を突っ込んでも大丈夫。…子供ながらに火掻き棒を持ち、薄暗い風呂かまどの前にしゃがんで、真っ赤におこったオキを見張りながら火力を調節する。自分にそれが出来る事がある意味楽しく、誇らしかった。だからよく頼まれもしないのに火の前にいた。
ある夜。かまどの土間にしゃがんでいた時、ふと足元を見ると、小さな変な物体が落ちている。1㎝ちょっとくらい。ピンク色。うごめいている。なにっ!?…ともう一度よく見たら、それは確かに何かの赤ん坊…いや、「胎児」のような形をしていた。…胎児。目を閉じ、小さな四肢をちょこんと出したあの姿。人間も、他の動物も、母親のお腹の中で発生し始めた頃は似たような形をしている。どこで見たんだか忘れたが、その頃はもうそんな事を知っていた。…まさか人間の子供?…って訳はないだろうから動物だろう。でも、見た目はそれもこれもそんなに変わらない。何の子供? …うごめいている。毛のないピンクの皮膚のまま、土間であがいている。このままじゃ死んじゃう。なんかドキドキしてくる。何か食べさせなきゃいけないんじゃないかな? ミルク? …でも何の動物か分からないのに、普通のミルクなんか飲むんだろうか? …助けてあげたいが、どうすればいいか分からない。第一触るのが恐い。「おばあちゃーん!」…そのまま祖母に知らせに行った。
良く覚えてないが、多分「そんなもんネズミの仔だろうから放っておけ」とか言われたような気がする。…ネズミだったら、助けたら家の迷惑になるかも知れない。がっかりし、助けられなかった罪悪感に少々苛まれた。気が付いたらもういなかった。誰かが捨てたのかも知れない。…でも、たとえばネズミだとしても、多分まだ生まれた直後か生まれる寸前、くらいの小さいやつが、一匹だけ放り出されてた理由は何なんだろう。その理由は大人になった今でも分からない。
真っ赤なオキの照り返しの中、「命は大事だ」と教えられたのに、放置するしかなかった小さ過ぎる命が、足元の土間の上でうごめいていた姿は今でも忘れられない。
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