映画とシンセとアメリカの朝食
それがどのくらい珍しいのか分からないから、ちょっと書くのを躊躇してたが…連れ合いのやまくんに「ものーーーーすごく珍しい!」と太鼓判を押されたので、書いてみようと思った思い出。
高校時代。文化祭で映画を撮る事になった。…話せば長いので全部は書けないが、すったもんだの末、私が脚本・総監督をやる事になった。撮影機材はというと、当時だから「8ミリ」。しかも数学の担任の私物を借りての撮影である。(^^)私も含め、スタッフは無論みんな素人。映画マニアのような知識のある人間もいなかったし、全ては試行錯誤だ。私も見よう見まねの「絵コンテ」を切り、演技をどーこー指導したり必死だった(- -)訳だが… まあ人徳がないというかリーダーの資質がないというか、人が付いて来ず映画は何度も破綻しかけた。不評を買って詰め寄られ、一度リコールされ、結局やる人間が他にいないのでまた戻された。その上、コンクールを控えた吹奏楽部の特訓も重なっていたのである。(- -)…過労状態でヘロヘロのヨレヨレ。道が真っ直ぐ歩けない。当然夏休みは全部そういう事に消えたのだが、他の遊びたいスタッフにはよく逃げられた。…秋が来て、文化祭が近付いても中々完成せず、深夜近くまで男子宅に(- -)詰めてプロジェクターでフィルムを編集した。切って貼り切って貼り、フィルムを針で引っ掻いてレーザービームを撃つシーンを作った。(昔はそーいう事したんだよ。(^^)良い子のみんな)…誰も団結しない映画集団だったが、ただ一度、声も全部入れて最終ラッシュを見、ちゃんと映画っぽく仕上がってるのをスタッフで確認した直後だけ…「やったー!」と一同飛び跳ねて歓喜した。(^^)…その一瞬が全てだったな。
…ま、そんな話はどーでもいいいんで。その映画制作の最中の話。私も始めの頃はバカだから、無謀な野心に燃えて「テーマ音楽は自作しよう」とか考えていた。しかしギターやピアノは出来ないし、部活の吹奏楽器はバスクラリネットというどマイナー木管。不気味な森のシーンくらいでしか活躍しない(^^;)音質の楽器で、とーてーBGMには使えない。出来ればシンセサイザーが欲しかった。(^^)…しかし考えて欲しい。当時パソコンはまだないのだ。市販の電子音楽は普通はエレクトーン。…冨田勲の登場以降、喜多郎とかテクノポップでシンセサイザーの存在は有名になりつつあったが、やっと鍵盤の付いたやつが発売されたかされないかくらいで、基本プロしか持ってない。本格的なものは部屋一面を埋めるほどの大きさ。…そんな時代になんでシンセサイザーと思い込んだのか自分でも分からないが、とにかく私はある筈もないシンセサイザーを探し回っていた。すると、あるクラスメートの女子が「うちにあるよ」と言い出したのだ。…ええっシンセ持ってる? これはちょっと触らせてもらわねば!…という訳で、スタッフ一同ゾロゾロと彼女の家に遊びに行った。
…いわゆる「お金持ち」。彼女の部屋にその機械はあった。キーボードっぽいが、何か大量のツマミやスライドスイッチが付いている。電源を入れるとツーと音が鳴り、いわゆる「波形」が表示される。ツマミを切り替えるとそれが「正弦波」、「三角波」、「ノコギリ派」、あと何波だか分からん四角いやつ…と変わっていくのだ。うわぁ波形から作るんだ!すげえ!…しかし、何をいじれば「音楽」になるのかがサッパリ分からない。別の音と混ぜたり、波形の幅や高さを変えたりするらしいが、そもそもどんな波形ならどんな音になるのか知識がないのに、これで素人が音楽なんか作れる訳がない。…持ち主である彼女に使い方を聞くと、彼女も良く知らないらしい。そもそも音楽やってる訳でも何でもない子だ。「じゃー、なんでシンセサイザーなんか持ってんの?」と聞くと、彼女はポーッとした表情でこう言った。
「シンセサイザー欲しいって言ったら、パパが買ってくれたのー」
…パパ。(- -;)それ絶対ハンパな値段じゃないだろ。使いこなせないと分かってる娘になぜ… いや、言うまい。お金持ちの思考は私のごとき貧乏庶民には計り知れんのだ。ともかくその日はみんなでシンセサイザーをいじり倒し、うわーうわーと騒いで遊んで日が暮れた。(- -)…日程の余裕はないとゆーのに。
で。このシンセ、機種は何だったのか。… これが、不思議な事に今資料を調べても全く分からないのだ。当時一般に発売されていた製品など数える程なのに。年代からするとローランドVP330かと思ったけど、デザインが記憶と違う。海外のWavecomputer 340とかは波形の出る窓がない。カシオのVL-Tone VL-1でもない。こんなシンプルなボタン数じゃなかった。…あるぇ? 記憶では確かに「ホワイトノイズ」と「ピンクノイズ」を出すスライドがあった。ノイズの種類なんてこの時初めて知ったのだから間違いない。波形の出る小さな画面も。…専門家のプライベート機種だったのか? 誰か、そんな謎のシンセの事を知ってる人はいませんか。
…結論。結局「テーマ曲の自作」は幻に終わった。(^^)映画のラストに流す曲は、あるスタッフの強い勧めでスーパートランプというグループの「Breakfast In America」(アメリカで朝食を)に決まった。…結構画面に合ってて良かったから悔いはないが… 今でもこの曲を聞くと、当時の苦闘と挫折、シンセで弾こうと頭の中で作っていた自作曲の記憶が蘇る。ほろ苦いというより激苦の思い出である。(- -)
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