カテゴリー「やまくんの奇妙な体験」の記事

2012年10月19日 (金)

秘密基地のヴォイニッチ

今回ちょっと大作。

「ヴォイニッチ手稿」という手書きの本がある。知らない人には「何のこっちゃ」だろうが…これは、オカルトや不思議話の好きな人の間では有名な奇書。中身は、何語か分からない未知の文字の文章と、地球上には存在しない奇妙な植物、意味不明な裸婦の群れ、曼荼羅のような円…などの絵がびっしり230ページに渡って書かれている。1912年に発見され、以来100年間、様々な人間が解読を試みたが…まだ誰にも読めないらしい。現在は本の劣化を防ぐため、ある場所に厳重に保管され、実物を手にする事は出来ないようだ。その分、ネットに画像が公開されている。

その貴重本「ヴォイニッチ」を写し…しかも文章の「日本語訳」を書き込んだ人間がいたとしたら?

その時私は、やまくんの不思議体験の話を聞き取りしながら、たまたまネットでこの画像を見ていた。彼は子供の頃の秘密基地にあった謎のノートの話をした。そのノートの話というのが、なんか「ヴォイニッチ」に似てる気がしたので、冗談で画像を見せ「こーいうの?」と聞いてみた。そしたら…彼はあっさり「あーこれこれ」と答えたのだ。…え? これこれってなに?

話はこうだ。やまくん小学4年。一時いじめられてた彼も、その頃は友達と楽しくやっていて、よくある仲間内の「秘密基地」を持っていた。場所はただの資材置き場。積んである材木の隙間の空間に入り込んで遊んでたらしい。基地の中には、拾ったエロ本が数冊。(^^;)宝物やお菓子などは持ち込まず、エロ本も読んだら捨てていたようで、まあ基地というか「隠れ家」のような場所だったんだろう。何をするともなく、彼らはほぼ毎日そこに通っていた。

ある時雨が降った。その後日、やま少年と仲間が秘密基地に行ってみたら…中は汚れて泥だらけ。一応材木の天井はあるものの、防水まではされてないから、雨が染み込み放題だったようだ。ふと、誰かが見慣れないノートがあるのを見付けた。普通の、灰色の大学ノート。表紙は濡れたせいでボコボコになっている。めくってみると、途中から変な植物の絵などが20ページくらい、色鉛筆で描かれている。仲間たちはすぐ興味を失ったが、やま少年だけは植物に興味を惹かれ、しばらくそのノートを読み込んだ。絵の横には日本語で解説らしき文章も書いてあるが、やま少年にはまだ文が難しかったので、内容はあまり記憶がない。覚えているのは「めしべが4本」という一文だけ。彼は図鑑を写したものだろう、と思った。

だが無論、仲間の誰もそんなノートに覚えはない。…まずいぞ。ここに誰か知らない奴が来たらしい。見付かったんじゃ、もう使えないなあ… 彼らは相談し、結局その秘密基地は放棄する事になった。バレた秘密基地は秘密基地じゃないもんね。そんな訳で、やま少年はノートを置いて基地を去り、二度と戻らなかった。だからノートがどうなったかは分からない。

そして長い年月が経ち…ネットの画像を見て彼は「あーこれこれ」と思い出したのだ。だが考えて欲しい。やまくんが子供だったのはうん十年前。ネットなんかない。巷のオカルト話だって「幽霊はいるのか?」「エクトプラズム!」「UFO!」くらいのレベルで、口裂け女さえ登場してない時代。ヴォイニッチ手稿なんてコアなネタは、まだ日本人のほとんどが知らなかった頃だ。仮にノートがヴォイニッチの写しだとしても、そんな時代に一体誰が、何の資料を元に写したのか。データだって公開されていたか分からんのに。そして横に書かれていた文章が本当に「解読文」だとしたら、100年解けなかった謎をどうやって解いたか。…普通に考えれば有り得ない話だ。

だから。やまくんが「下手な植物の絵を、ヴォイニッチの絵と混同しただけだ」と誰もが考えると思う。子供の記憶なんて怪しいもんだと。でも、やまくんという人間を知ってる私には勘違いとは思えない。彼の記憶は感覚や映像を中心に働く。筋道立って論理的に話すのは苦手だが(だから、思い出を話させても要素がバラバラで、まとめるのが大変(^^))、その分、映像記憶には実に優れているのだ。それに元々オカルトが(恐いから)嫌いで、私が強要しなきゃ、絶対自分からそういう物は見たがらない。どこかで見て覚えていた…という可能性も薄いのだ。私は念のため、ネットに公開されているヴォイニッチの画像を全部彼に見せ、「この絵はあった?」と聞いてみた。彼はハッキリと「あ、これはあった」「これは無かった」「これは…不明」と判別した。リンクしていいかどうかだが…ここに貼っておく。

http://www.voynich.com/folios/

というページの
f2v f3r f3v f14r f18r f23v f37v f51r f67r(の左ページ)

これらは確かにノートにあったと言っている。…最近、「時空のおっさんの世界」でもよく登場する、重要そうな「中心に顔がある赤青白の太陽」の紋章もバッチリ入っている。(^^)彼の記憶に意味があるかどうかは不明だが、私は「めしべが4本」という文にすごく引っ掛かっている。…そんな植物この世にないと思うので。

追伸・なんでガキの秘密基地にそんなノートがあったのかも謎だが、当のやまくんはこう言う。「ノートを書いた人間は追われてたんじゃない? だから秘密基地にノートを放り込んで隠したんだよ。今まで誰も解けなかったんじゃなくて…実は解いた人間から消されてるんだったりして」…おおい恐いだろーが!

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あり得ない日食 2

やま少年が、変な日食を体験した同じ年。

今度は、彼が学校で授業を受けている最中に異変が起きた。窓の外で、見る見る空が真っ暗になっって行ったのだ。生徒たちは驚き、教室がざわつき始めた。が、先生は平静を装っている。(装ってると子供でも分かる程度には驚いてたのだな(^^))無論この騒ぎは、やま少年の教室だけでなく全校的に広がっていた。

空から雷が落ちて来た。…いや、それは彼が「雷だ」と思っただけのこと。光には音がなかった。バリともゴロとも鳴らず、白く細い光がほぼ直線状に空から地面へと走ったのだ。あの、雷特有のジグザグの軌跡ではない。始めは1本。次に別の場所から2本。更に2本、最後に1本と、ランダムな位置から落ちて来る。彼の表現によると、「雷というより、火山の噴火の火柱が空から下に向けて走ってる感じ」だったそうだ。…だからって、これが雷でないなら何なのだ? ともあれ「雷」だと信じたやま少年は、空が暗いのは当然厚い雨雲のせいだろうと考えた。しかしすぐその考えは消えた。空はあまりにも真っ暗で、とても雨雲程度の遮光とは思えなかったから。生徒たちは教室の窓から不安そうに空を眺め、ああだこうだと喋っている。…やがてチャイムが鳴り、先生はそそくさと教室を出て行く。それが、その日最後の授業だった。

学校が終わってしまったので、生徒たちは帰らねばならない。しかし相変わらず空は暗いままだ。恐がって誰も帰ろうとしない。で、やま少年は友達と何を話してたかというと…実は誰とも話さなかった。(- -)彼はその頃、ちょうど少しいじめられていて、話す友達がいなかったのだ。仕方なく、同じ学校に通っている兄貴の教室に行く事にした。兄は5年生。コの字の校舎のほぼ反対側の教室にいて、運動場を通らなくても辿り着ける。ざわつく生徒たちの(別にパニックは起きてなかった)間を抜け、やま少年は兄の教室に向かった。階段の踊り場で、上級生が「あれ?なんで3年坊主がこんなとこにいるんだ?」と聞かれたが、素直に兄を迎えに来た事を話した。…だが兄は教室にはいない。先に帰ったのかな。…その時、やま少年はふっと思い出した。彼は放送部で、その日は下校の放送をする当番だったのだ。あわてて放送室に向かった。

放送室で、クラブの仲間と会って少し話し(こっちではハブられてなかったらしい)、いつものように「下校の時間です。用事がない人は家に帰りましょう」とやって…

そこから…何故か記憶が曖昧だという。真っ暗な街中を通って行ったのか。道は分かったのか。思い出せない。ただ、気が付くとやま少年は家にいた。しかし兄はいない。…いない筈だ。良く考えたら、彼の兄はその頃リューマチ(子供なのに…)で入院してたのだから。なら、なぜあの時兄の教室に迎えに行ってしまったのか? …全てが良く分からない。しかし、夢ではなかったと彼は言う。事態の前後は忘れても、あのとんでもない暗さだけは鮮明に覚えているから。彼はずっとこの出来事を「日食」だと記憶していたが…違うだろーこれは。ちなみに、この「暗かった日」の出来事について、その後彼が友達たちと語り合った事は一切無かったという。

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2012年10月18日 (木)

あり得ない日食 1

やまくん小学3年の時の話。彼は言う。「その年は、やたら日食が多かった…」
この時点ですでにおかしい。年に何回も日食が起きる訳がない。皆さんご存知の如く、一度起きるだけでもあの騒ぎだ。…「うん十年に一度の天体ショーです!」「日食グラスを買いましょう!下敷きで太陽を見ないように!」「えー日食が起きる原理は…」学校では、生徒総出で観察。テレビは中継。コトが多少昔でも、日食が社会的イベントなのは変わらなかった筈だ。なのに、彼が記憶している日食は、誰もそんな話してないのに「ただ突然真っ暗になった」…それだけなのである。

順を追って書こう。バラバラなやまくんの記憶の話を繋ぎ合わせ、再構成してみた。まず「1度目の日食」。

その日、やま少年は一人家でテレビを見ていた。とある(後に超有名になる(^^))テレビ番組の初回、その番宣番組だったという。すると…突然停電になった。テレビも消えた。あわてて外に出てみると、空は真っ暗。夏の6時頃である。まだ日没の筈がない。それに…周囲の風景は普通に見えていた、というのだ。…変でしょ。空が闇で電気が消えていれば、普通は何も見えない。どう考えても尋常な状態ではない。しかし恐れを知らないやま少年は、ここで「あ、日食が起きた」と思い込んだ。日食という現象だけは知っていて、「日食とはそーいうものだ」と考えたんだな。恐がりもせず「わー面白い!」と喜び、家にいてもしょうがないので、自転車のライトを付けて近所を走り出した。

真っ暗な空以外は、いつもの町の風景。市場を通過し、やがて、家の前に縁台を置いて将棋を刺しているおっさん達を見付けた。(そういう人がよくいた時代だね(^^))いつもそこで将棋をしてる人達なので、やま少年は警戒感もなく自転車を止め、声を掛けた。「どうしてこんなに急に暗くなっちゃったんでしょうね?」…するとおっさん達は怪訝そうに手を止めて答えた。「え?いつもこんなもんだけど?」 なんとなく話が合ってない。構わず、やま少年は再び自転車で走り出す。「そうだ、学校に行ってみよう」

彼が通っている小学校に着いた。…門は閉まっている。誰もいない。校内には入れない。ふと空を見上げてみると…一部が「真っ暗」ではなかった。いつの間にか赤くなっていたのだ。毒々しい、オレンジ掛かった赤。「夕焼けの色じゃなかった」と彼は断言する。恐くはないが「変なの…」と思ったやま少年は、自転車駆って家へと引き返した。

家に帰り元の部屋にいると、しばらくして電気が付いた。外は外灯の明かりで明るくなった。本当に日が暮れたのである。そしてすべては普通に戻った…

以上がやまくんの「一度目の変な日食」である。…いや、それは日食じゃないって。この話、オカルト好きな人なら知っている「時空のおっさん」に酷似しているのだ。突然、今の世界とそっくりな別の空間に迷い込む話。異様に真っ赤な空。それでも「ほんとに日食だったんじゃないの?」と疑う人の為に言っておくと、彼が見ていたテレビ番組の放送年は分かっている。調べた所、その年に日食は起きてないのだ。前後数年も、ごく僅か太陽が欠ける日食があった程度で「真っ暗な日食」はあり得ない。一体やまくんの見た「真っ暗な空」は何だったのだろう?

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2011年9月 5日 (月)

四国のダブルコラボ怨霊!

これは、やまくんが前の会社の先輩に聞いた話。本人の体験ではないが、あまりにショーゲキ的なお化け話なので、ぜひ記録しておきたい。(^^)

仮に、その人の名前をTさんとしよう。Tさんは、大学の卒業旅行で友人2、3人と四国に行く事にした。しかも自転車で。Tさんの自宅は神奈川辺りだからかなりの距離だ。海はフェリーで渡る。…若いから元気なんだな。(^^)その時代は自転車で全国を旅するのが流行ってたそうだ。何週間もかけ、自転車こぎこぎ、四国のあちこちの観光名所を回り、旅もそろそろ終わりに近付いていた時の事だ。

Tさんたちがとある海辺にたどり着いた時、日が暮れ始めた。見回したが、あたりには旅館も、民家すらない。今晩はどこに泊まろう?今から海辺を離れ、宿泊先を探すのは大変すぎる。…しばらく相談した結果、「海辺の適当な所で寝ればいーじゃん」という話になった。その海岸は岩浜で、あたりにはボコボコと大きな岩が突き出している。ついでに大きな洞穴もたくさんある。中には、人間数人くらい充分に寝られるスペースがあるのだ。寝袋は持ってるし、男同士のゴロ寝だから細かい事は気にしない。Tさんと仲間たちは、洞穴の中でもひときわ広く、居心地の良さそうな穴を見つけてそこに潜り込んだ。穴は深く、更に奥へと続いているようだったが、もちろんそんな奥までは入らない。海の見える入り口付近に陣取る。…さて寝る準備は整えたが、さすがに環境が違うせいか中々寝付けない。彼らはしばらくボソボソと話をていたが、やがて眠気が襲い、全員眠ってしまった。もう深夜になっていただろう。

…やがて、Tさんは何故かふっと目が覚めてしまった。もう一度寝ようと思うが、今度は寝付けない。仕方ない、海を眺めてタバコでも一服する事にした。洞穴からは海がそのまま見渡せる。これがホテルなら、海の眺望付きのいい部屋って事になるだろうな。(^^)…あれ? 海を眺めていると、波の音に混じって何か「ざわざわ…ざわざわ…」という妙な音が聞こえる。明らかに波の音とは別だ。Tさんは始めは「何かな~」というくらいで、そんなに気にしてはいなかった。…だが、やがてそれは音だけではなくなった。ざわめきと共に、何か黒く丸い物が波間に現れるのが見えたのだ。どうやら人の頭らしい。始めは1つ2つ、そして、数はだんだんと増えていく。それでもTさんは「え…こんな夜中に泳いでる連中がいるのか?」としか思わなかった。

黒い頭は、時間と共に徐々にその全身を現していく。数も、始めは数個だったものが、気が付けば何十体にも増えている。彼らは…ゆっくりとこちらに近付いて来ているのだ。ええっ!そ、そんなもの泳いでる普通の人間の筈ないじゃーないか!大体遠浅の砂浜じゃないんだから、海は深く、彼らの足元に歩ける海底がある訳がない。あたふたし始めたTさんを無視し、黒い人影はなおも近付いて来る。やがて、月明かりでそいつらの正体が見え始めた。それは…全員軍服を着た日本兵だったのだ!…「うぎゃーっ!」 Tさんは絶叫し、友達を揺り起こす。「これはやばい!」「逃げた方がいいんじゃないのか」…彼らは取り合えず洞穴の奥へと潜り込む事にした。真っ暗な穴の中を、懐中電灯の光でゴソゴソ進んでいく。すると。その奥から、誰が見ても「落武者」だと分かる、鎧を着けた男がこちらに向かって進んで来るのだ。うわーーっ前は落武者、後ろは日本兵!究極の怨霊タッグ!…どうやって脱出したものか、Tさんたちは転がるように洞穴から出て、岩をよじ登って浜に戻り、ひたすら走り続けた。

次の日。夜が明けてから、Tさんたちはあの洞穴に戻り、置いてきた荷物を回収した。後で地元の爺さんに聞いた話によると、昔その浜で輸送船が沈められたんだという。鎧武者の方はずっと前、このあたりが古戦場だった時代のものらしい。Tさんたちは知らなかったが、その洞穴は「出る」というので地元では有名なスポットだったようだ。(- -)…まあ日本中どこでも大抵は古戦場だし、戦争の傷跡もあるんだけどな。やたら変な場所で眠るのは危ないよ、というお話でした。

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2011年3月27日 (日)

もう一人のやま少年。

やまくん小学三年生。…小学校のプール。その頃やま少年は泳げなかった。(^^)

友達が、からかい半分にやま少年に言った。「おい、お前クロールできるか?」…そんなの出来るわけがない。でも意地っ張りなやま少年はムキになり、「できるわい!」とデタラメに手足をバタバタさせ、泳ぎ始めた。泳ぐつもりが…沈んでいく。あれ?息が出来ない。苦しい。やま少年は溺れ始めたのだ。いけない、このままじゃ死んでしまう…

ふと気付くと、やま少年は「溺れている自分自身」を眺めている自分に気付いた。水中でバタバタしている自分のやや上方、後ろに「彼」は浮かんでいたのだ。…いわゆる幽体離脱。あ、あんな所に僕が…と驚き、またふと気が付いた時、彼はどうにかプールの端にたどり着き、ゴホゴホしていた。助かったのだ。自分がいつ体から抜け、いつ体に戻ったのかはよく分からなかった。

一度抜けると「抜け癖」がつくらしい。…それから数年間、やま少年は気が付くと体から抜け出し、寝ている自分自身を眺め下ろしている事があった。夏、吊ってある蚊帳の上から見ていた事もある。寝ている時にだけ起きるようだ。でも、浮いている場所から遠くへ行こうとは思わなかった。あまり自分の体から離れると、そのまま戻れなくなる気がしたのである。…やがて彼が成長するとこの現象はなくなった。今でも、この出来事は彼にとって幼い日の幻のように思える不思議体験である。

(蛇足。寝ている時に幽体離脱する。これがもし私だったら、きっと学校の授業中(^^)に抜けていただろう。)

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2011年3月 9日 (水)

隠された怪談・殺風景な部屋

やまくん曰く。「…もう幽霊の体験なんてないからな!大体、俺はやばい場所に行くと変な緊張感みたいな感じがあるんだ。そんな感じがしたのは、あの九州のホテルと…大阪のホテルに泊まった時くらいで」

自ら墓穴を掘って暴露した。(^^)大阪のホテルに泊まった時、何かあったらしい。…問い詰めて聞き出したのが以下の話である。

やまくんサラリーマン時代。大阪に出張になった。地元の地理には明るくなかったので、ホテルは現地の業者に頼んで予約してもらったという。…たどり着いたホテルは、繁華街からは少々離れた場所にあった。見掛けは4~5階建ての普通のビルだが、入り口がなぜか通りに面してではなく、裏に付いている。

私「…それって変じゃない?」 やま「いや、そういうホテルもよくあるよ。雑居ビルの間なんかのやつに」 私「…そお。」

入ると、受付の女性はいやに無愛想。むしろ泊まるのが迷惑そうにさえ見える。しかも、そのホテルは「門限」があった。10時までに戻らないと入れてくれないというのだ。…でも、細かい事にはこだわらない大雑把な性格のやまくん、気にせず鍵を受け取って部屋に向かおうとした。フロントの横にエレベーターが… ない。あれ? フロントの横は階段になっていた。エレベーターはその奥である。まあいいや、2階だし、奥まで行くのも面倒だから階段で上がっちまえ。…という訳で、彼は歩いて2階へ向かった。

私「客商売なんだから、普通エレベーターの方が近くにあるでしょ。構造おかしいよ、そのホテル」 やま「そういう建物もあるって」 私「…そーかなあ」 

ほんとに、何の飾り気も愛想もない建物である。部屋に入ると…そこは、ただの四角い空間。壁は白っぽいだけ。窓はあるが、他には額もない。棚もない。作り付けの家具や構造物は一切無いのだ。入り口付近にかろうじてトイレがあるが、クローゼットはその横にポンと置かれた、ロッカーのような代物だ。風呂さえもない。入浴は大浴場に行かねば出来ないらしい。…何も無い部屋の真ん中にベッドがある。なぜかどの壁からも離して置かれている。ベッドの照明は、後から壁に取り付けた、勉強机なんかに使うアームライト。あとは天井に蛍光灯があるだけだ。

やま「…確かに、言われてみればホテルと言うより、病院みたいな作りだけど」 私「つーか、元病院だろそれ。後からちょこちょこっとホテルに改造しただけの」 やま「…かも知れん」

いや、寝るだけなんだしこんなもんだろ。大浴場まで行くのもかったるいので、彼は早々にベッドに潜り込んだ。…深夜。どこからか声がする。隣の部屋で誰か騒いでいるらしい。よく聞くと…それは口論だった。男と女が何か言い合いをしているのだ。しかもそれは延々と終わらない。いつまでも、離れている筈の壁を通過してベッドまで聞こえて来る。うーこれじゃ眠れないよ!…と布団を被ってぼやきつつも、基本寝付きが良く、一度眠ると中々起きないタチのやまくん、結局そのまま寝てしまった。…次の朝。さすがに苦情を言ってやろうと思い、やまくんはフロントの例の無愛想な受付に向かった。

やま「あの、昨日隣の部屋がやかましくて眠れなかったんですけど」 受「隣の部屋は誰も泊まってませんが」 やま「…はあ?」

じゃあ、一晩中響いてたあの声は?…そうか。客がいないので、従業員でも入り込んで話してたんだな。しょーがねえな。…そう結論付け、やまくんはホテルを後にした。世は全て事もなし。めでたしめでたし。

私「…ちょっと待ってよ。そのホテル門限があるんでしょ? つまり、夜になると従業員が帰っちゃうタイプのホテルでしょ?」 やま「そーだよ。夜、何か用事があったらブザーを押すんだ。それが詰め所みたいな部屋に繋がってて、そこに留守番が1人…」 私「じゃあ夜中に部屋に入り込んで話してた従業員って誰なのよ?」

…やまくん、それでも「気のせいだ気のせい!」で済ませようとする。私にはどーしても納得が行かない。

私「大体ホテルそのものが変過ぎるやん。門限があったり、客商売とは思えない構造だったり」 やま「だから多分、業者用の、関係者だけが泊まるホテルなんだよ。そーいうホテルはこんなもんなの。門限も、従業員が帰るのもよくあるの。北海道のホテルに泊まった時だってそうだったし」 私「…北海道?」

そりゃ北海道とか、この辺(千葉)のド田舎ならあるかも知れない。でもあんたが泊まったのは「大阪のホテル」でしょ。いくら繁華街の外れだって、外は町並みだし、そこまでするほど夜中人がいなくなる訳じゃないでしょ。…でも、やまくんはこういう事は「気のせい」だと思わないとやってられないらしい。(- -)まーそうだろうな。だから、これ以上は詮索しないでおこうかと思うのだが… ただ一つ。彼はこの話をする前に、すでにそこで「やばい場所で感じる緊張感」を感じた、と言っちゃってるのである。直感には素直に従った方がいいと思うよ。従いたくても逃げられない事だってあるだろうけど…

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2011年3月 4日 (金)

鉄板怪談・これが「出る」ホテルだ

やまくんサラリーマン時代。その頃、彼はよく北に南に出張していた。…ある出張で九州のホテルに泊まった時の話である。タバコを吸わないので、彼は禁煙室を予約していた。夕食の前に荷物を置こうと、彼は早めにチェックインを済ませ、フロントで鍵をもらって部屋に入った。

チェーンの位置が変だ。ふと見ると、ドアに鍵を付け替えた跡がある。

こ…これは! そう、部屋で何か事件があり、鍵を壊して入った証拠ではないか。…ちなみに、ホテルなどで「部屋に幽霊が出るかどうか」を調べる方法が二つあると言われている。一つは、額や家具の裏にお札が貼られているかどうか確かめること。そしてもう一つが、鍵に付け替えた跡があるかどうか確かめることだ。ただお札は巧妙に隠されている場合があるので、事故物件かどうか確かめるには「鍵の付け替え」を調べる方が確実なのだそうだ。…すごく明白な証拠を見付けてしまった。やまくんは「よもや」と思って部屋を見回した。額は…ない。じゃあお札はないのか。少し安心したが、鏡が掛けてあったので念の為めくってみた。すると…

鏡の裏に、何かが赤い字で書かれた怪しいお札がドンピシャで貼ってあった。

うわぁ!…あわててその辺りを見回すと、今度は床のカーペットに気が付いた。一部分だけ色が違う。カーペットを張り替えた跡だ。当然…カーペットが、掃除では取れないほど「何か」によって汚れてしまった結果だろう。つまり、彼は「この部屋で事件が起きました。オバケが出ますよ」という証拠物件を、ご丁寧に3つも発見してしまったのである。しかし、予約までしておいて今さら「部屋を変えてくれ」とは言えない。…なあに、一晩泊まるだけだ。今からお客さんと飲んで、帰って来てバタンと寝てしまえば大丈夫さあ。常に前向きなやまくん、それからすぐに食事に出掛け…夜遅く、再びその部屋に帰って来た。

深夜のホテル。休んでいると、「コンコン」と部屋をノックする音がした。

ガチャッとドアを開けるが誰もいない。…もちろん、特に友人もいない出張先で、しかも深夜にホテルに訪ねて来る人間などいる筈がない。非常階段が近い部屋だし、風かな…? でも、それは風でガタついたような音ではなかった。明らかに何かがドアを「叩いて」いるとしか思えなかった。

「コンコン」…再びノックの音が。開ける。…誰もいない。だぁーもう嫌だ!! その後やまくんは部屋の電気を全部付け、テレビを大音量で流しながら一晩を過ごした。幸い、それ以降怪異は起きなかった。…朝。やまくんは「あの部屋で何か事件があったんですか?」と、ダイレクトにフロントに尋ねてみた。しかし、フロントは要領を得ない顔で「いえ、何も…」と答えるだけ。鍵の付け替えや不自然なカーペットから考えても、ほんとに何も無かったとは思えない。おそらく、事件のことを何も知らない人間をフロントに置いているのだろう。これでは真相は調べようがない。 

…恐い出張をどうにか乗り切ったやまくんだが、再び災難が彼を襲った。また同じ場所に出張を命じられ、同じホテルに泊まる事になったのである。今度はホテルに入ってフロントで聞く。部屋がほぼ満室だという。「禁煙室なら一つ空いておりますが、よろしいですか?」…当時は今ほど禁煙ブームではなかったが、喫煙室から埋まっていくというのも妙な話である。しかし、仕方ないので彼はその部屋でいいと答えた。

そこは、あの日泊まったのと同じ部屋だった。(^^)…なぜだ。呼ばれているのか!? その夜、この間と全く同じ深夜の1時半頃に、誰もいる筈のないドアの向こうからノックの音が聞こえた。彼はこの間と同じように、テレビをガンガン鳴らしてベッドに潜り込んだ。

…そして。同じ場所に3度目の出張を命じられた時、彼はホテルに予約の電話を入れた。「喫煙室でお願いします」…今度はやっと別の部屋。こうして、やまくんはようやく「恐怖の禁煙室」から逃れる事が出来たのだった。余談だが、山道でタヌキやキツネに化かされた時は、タバコを一服すると災難を逃れられるという。どうやら怪異はタバコの煙が嫌いらしい。だから私が「ねっ、タバコにもそういう良い効能があるでしょー」と持ち掛けても…彼は「いや、それとこれとは別だ」と、いまだタバコをかばうつもりは無さそうなのだが。

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2011年2月23日 (水)

正統派怪談・やまくんと顔

連れ合いのやまくんは、多少「霊感」があるらしいが、滅多な事でそれを認めようとしない。変な物を感じても、極力「気のせいだ」で済ませようとする。色々と聞き出し、「いくら何でもそれは気のせいじゃないだろう」と突っ込んだら…こんな話をしてくれた。

やまくんは大阪の下町の生まれである。…そこは元々畑が連なり、タヌキの走り回る田舎だった。ある時「大阪万博」が開催される事になり、それに伴って新御堂筋線高架橋を建設する事になった。予定地はやまくんの住む町内のど真ん中。土地は買い上げられ、町内会は丸ごと移転するハメになったのである。…しかし立退き料はバッチリ支払われたので、住民はかなり綺麗になった新しい家に住む事ができ、特に苦情は出なかった。(^^)場所は元の町の目と鼻の先。やはり元は畑だった土地である。…まあ、そんな時代のお話。

その頃、やまくんの住む町内で「ヘビが出る」という騒ぎがあった。折りしも蒸し暑い夏場、町内会の倉庫に入ったおばさんが「ぎゃー!」と悲鳴を上げて駆け出して来る。炎天下の熱気を避けたいのか、巨大なヘビが暗い倉庫の中にとぐろを巻いて居座るようになったのだ。アオダイショウか何かで珍しい種類ではないらしいが、見掛けた子供の話によると「3~4mはあった」という。…まあ割引くとしても、2m以上ならかなり巨大である。そこは元々畑だった場所なので、住人は「土地の主じゃないか」と噂した。

で、その夏。やま少年はなぜか頻繁に「金縛り」に合っていた。ただ体が動かないだけで済む事もあったが、時には金縛りの最中に変な話し声が聞こえた。…その声は複数の人間がボソボソと会話しているような感じで、始めは部屋の外から聞こえてくる。やま少年が動けないまま聞いていると、やがて声はだんだん近付いて来る。もちろんそこには部屋の壁があるのだが、声はお構いなしに壁を通過して接近して来るのだ。…声はだんだん大きくなる。会話の内容はさっぱり分からない。やがてやま少年の頭の後ろにまで近接し、そこを通り抜け、声はそのまま反対側の壁の向こうへ抜けていく。…要するに通過していくだけらしい。恐い事は恐いが、特に実害はなかった。霊には通り道があるというから、この部屋がそれに当たっているのかも知れない、とやま少年は考えた。なんせ元は畑、後から家を建てたのは生きてる人間の都合である。

通り過ぎるだけなら良かったのだが。ある夜、やま少年はふっと目が覚めた。すると目の前に見知らぬ男の顔があったのだ。…首から下はなく顔だけ。至近距離。面前10センチ。あと一歩近付けばキス。(^^)うわぁあ!と驚き、やま少年はそのまま意識を失った。…というか、眠りに落ちた。聞く所によると、金縛りでオバケを見た後に「気絶する」という場合、いわゆる失神ではなく、そういう「突然眠りに落ちる」という状態になるらしい。余談でした。

そしてこの「顔事件」の後、やま少年は金縛りには合わなくなったという。ヘビとこの事件が関係があったのかどうかは不明だが、夏も過ぎ、それ以降大蛇の方も出る事はなかった。これは私の勝手な推測だが、何か人間でない物たちが、自分たちの通り道に居座った連中を「どれ、顔でも拝んでやるか」と覗きに来た…のかも知れない。

やまくんはこの話をした後、「なっ。だからあの顔は気のせい。夢だったんだよ」と締めくくった。…まあ、そんなもん見たら、気のせいか夢だと思いたくなる気持ちは良く分かった。(^^;)私だって「おっさんの顔が、もしそのままやまくんに覆い被さっていたら…」と思うと、すごく気のせいだと思いたくなるのである。

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2011年2月18日 (金)

奇跡の鉄条網ワープ?

やまくんの、幼い頃のささやかな思い出。

まだ学校に上がる前の、小さいやま坊や。彼はその日お気に入りの三輪車で爆走していた。…家の近所には斜面がある。ここ降りると速いんだ!…と、やま坊やはざーっと勢いよく走り降りる。しかし、はっと気付くと斜面を降りた辺りには鉄条網が張られていた。うわぁ、ぶつかる!必死でブレーキを掛けるが間に合わない。このままではあのトゲトゲに突っ込んじゃう! やがて鉄条網が目前に迫る。やま坊や絶体絶命。彼は思わず目を閉じた。

ふっと気付くと、やま坊やはまだ何事もなく走っている。…あれ? 鉄条網は背後。ぶつかった感触はない。もちろん怪我一つしていない。いくら小さいからって、鉄条網の最下段は彼がノータッチでくぐれるほど高くはない。無論切れ目もない。長く張られているので、横から回り込める可能性もない。つまり…どういう訳だか、やま坊やは行く手を遮る鉄条網を「通り抜けて」しまったのだ。有り得ない。そんな筈はない。…しかし、幼いやま坊やの頭にとっさに浮かんだ言葉は「ラッキー♪」だった。

その後、小学校に上がりやや物心がついた頃に、やま少年はこの事件を思い出した。あれは…何だったんだろう。考えてみるが分からない。謎だ。…結論として彼は「ラッキーだったなあ♪」と思った。

そして。立派に成人したやま中年、今でもこの出来事を覚えている。しかし、あの時何が起こったのかは、大人の知識と良識で考えてもやっぱり分からないのだった。仕方ないので、彼は今もこの事件の事を「俺ってラッキーだったんだよ♪」で済ます事にしている。

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2011年2月13日 (日)

なんか安そうなインプラント…

やまくんが高校の頃の話だという。彼には兄がいて、この兄弟非常に性格の相性が悪かった。親やご近所には兄の方が可愛がられていたが、実は兄は弱くてズルくて、おやつは奪い取るわ、失敗は弟のせいにするわ。やま少年はいつもリスクを押し付けられていたらしい。しかし年少の悲しさ、兄は本来非力なのに、ケンカをするとやま少年はいつも兄にボコられていた。

そんなある日。朝目が覚めると、やま少年は顔に傷が出来ているのに気が付いた。深くはなく、引っかき傷のような物で特に痛くはないが、引っかいた覚えもないので不思議に思ったという。しかも1日でそれは消えてしまった。…そして翌朝。また引っかき傷が。別に猫も飼ってないし、夜中に兄貴が引っかいてる…訳でもないだろうなあ。そして1日が過ぎる。次の朝。またまた引っかき傷が。

結局、この日から1カ月ほど、彼の顔にはほぼ毎日引っかき傷が出来たのだ。場所は額、もしくは頬だったという。変ではあるが、だからって特に生活は影響はないし、防ごうにも寝てる間なので、いつ出来るのかも分からない。仕方ないからやま少年はそのまま普通に暮らしていた。…しかしある朝。目覚めるといつものように額に傷が出来おり、やま少年はふとそれを手で触った。そしたら、何かの物体が「ぽろっ」と額から落ちて来た。

それは、透明でツルッとした、長方形のプラ板のような破片だった。

…本当にプラスチックかどうかは分からない。何かそんなような物、としか言いようがない。しかも、それは額の傷から「生えて」出て来たように思えた。普通に考えて、人体からプラ板が生える事は有り得ないだろう。万が一あったとしても、額なんて肉はほぼないから、傷口のすぐ下は頭蓋骨のはずだ。骨から何か生えたりするだろうか。いや、むしろこれは今まで額の皮膚の中に埋まってたんじゃないのか。まさか…インプラント? その頃流行っていたUFOの話がやま少年の頭を過ぎる。宇宙人にさらわれた人間が、体内に何か埋め込まれ、記憶を消されて帰されるという、アレ。俺はいつの間にか宇宙人にさらわれていたんじゃないだろうか。でも、プラ板ぽい非伝導物質に情報を入れたり、通信したりできるんだろうか。… で、プラ板の謎は解けないまま、結局やま少年はその物質をゴミ箱に捨ててしまったという。そして、その日を境に顔に引っかき傷が付く現象はピタリと無くなった。

それからの彼の日常は…特に変化はなかった。ただ一つ、プラ板が出て以来、やま少年は今まで決して勝てなかった兄にケンカで勝てるようになったという。それ以来負け知らず。果たして宇宙人が「ようし、いじめられてる弟がケンカで勝てるよう、強くなるデータを彼の脳内に送るぞ!」…とインプラントを行い、役目を終えたプラ板が顔から出た…なんていう変な事件が起きたのか否か。それは誰にも分からない。

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